健康経営の基本として、社員の健康の維持や促進があります。そのためには、健康診断実施と健康診断後の事後措置を確実に行い、健康診断結果をいかに活かすかが不可欠です。法令に基づいた、健康経営につながる健康診断事後措置を効果的に行いましょう。
今回は、一般健康診断の実施から事後措置を行なう際のポイントや注意点などについて解説します。
健康診断事後措置とは
健康診断事後措置とは、健康診断の結果に基づき、事業者が医師の意見を聴取し、必要時に就業上の配慮を行うこと等を指します。
企業は安全配慮義務において、健康診断の結果をもとに、適切な対策を講じることで、社員の健康と安全を守ることが求められています。
健康診断事後措置の目的
健康診断の事後措置の目的は、社員の健康と企業の責任を守ることです。
具体的にみていきましょう。
1.社員の健康の確保
一般健康診断の結果、何らかの異常の所⾒がある社員は、半数を超えています。早期に病気につながる所⾒を把握し、早い段階で病気を発⾒し治療につなげることが重要です。
健康経営においても、社員のプレゼンティーイズムを防ぎ、生産性を高めるために健康診断の活用は不可欠です。プレゼンティーイズムとは「出勤はしているものの、健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況」のことです。社員の健康に関するコストにおいてプレゼンティーイズムが占める割合は77.9%にも上るといわれています(東京大学調査)社員ひとり一人のパフォーマンスを高め、プレゼンティーイズムに関するコスト削減し生産性向上に取組むことが重要です。
2.企業における安全配慮義務
健康診断の結果において適切な対策を講じることで、社員の健康と安全を守ることが求められています。万が一、健康診断の結果を踏まえた適切な対策を講じずに、社員が必要とされる再検査を受けずに働き続け、体調を悪化させてしまった場合に、安全配慮義務違反となり責任を問われる可能性があります。
たとえば、以下のような判例です。
<システムコンサルタント脳出血死事件控訴審判決>
システムコンサルタント職の男性が、自宅で脳幹部出血により死亡した。定期健康診断の結果で高血圧症が悪化していたことを認識していたにも関わらず、事業者は「脳出血などの致命的な合併症に至る可能性のある過重な業務に就かせない」あるいは「業務を軽減する」などの安全配慮義務を怠った。その結果、高血圧症を悪化させ、高血圧性脳出血の発症に至ったと認定し、安全配慮義務違反による損害賠償責任を免れないと判断した。
(東京高裁H11.7)
このような事例を防ぐためにも、事業主は、脳・心臓疾患の発症の防止、生活習慣病等の増悪防止を図ることなどを目的とし「健康診断事後措置」を適切に行なう必要があります。
健康診断事後措置の流れ
1. 健康診断の実施
健康経営の実践では、健康診断の受診率は実質100%が基本となります。
法令においては、下記に定められています。
【労働安全衛生法第66条】
事業者は、社員に対して、医師による健康診断を実施しなければなりません。また、社員は、事業者が行う健康診断を受けなければなりません。
社員に健康診断を確実に受診してもらうには、下記のような取組が有効です。
- 企業の閑散期、職場業務状況に配慮した健康診断実施時期の検討
- 衛生委員会での概要説明
- 健康診断の意義や必要性についての啓発
- 事業者からの情報発信や社内掲示
- 健康診断当日のアナウンス
- 職場管理職を通じた、未受診者への受診勧奨
健康診断を受診できなかった場合には、すみやかに再受診できるよう、産業保健師により医療機関の手配を進めていきます。
健康経営度調査には下記の設問が掲げられています。
設問:社員の健康診断の実施状況
回答:一般定期健康診断の受診率、要精密検査受診率
2. 健康診断結果の通知
所見の有無にかかわらず、受診者全員に健康診断の結果を文書で通知する必要があります。個人情報に配慮し、書面ですみやかに健康診断結果の個別配布を行ないます。
【労働安全衛生法第66条】
健康診断結果は、社員に通知しなければなりません。
3. 産業医の意見聴取・就業判定
産業医による意見聴取・就業判定を行います。これは健康診断で異常所見があった社員の就業判定を行うために行うもので、事業者に実施義務があります。
ほとんどの方は、異常値がある場合でも必要な治療を開始・継続することにより就業は可能であると思われますが、健診結果や精密検査・再検査の結果によっては、残業禁止や出張の禁止、勤務部署の変更などの措置が必要であると思われる場合もあります。すぐに入院が必要、あるいは自宅療養が必要な場合には「就業禁止」という場合もあります。
①産業医の意見聴取
就業上の措置については健診実施日から3か月以内に医師等の意見を聴かなければなりません。産業医が適切に意見を聴くため、健康診断の結果のみではなく、産業保健スタッフより下記の情報をを提供します。社員との面接の機会を設け、ヒアリングすることも検討しましょう。
- 社員における作業環境、労働時間、深夜業の状況、作業負荷の状況
- 過去の健康診断の結果等に関する情報
- 職場巡視の機会
【安衛法第66条】
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
事業者は健康診断の結果に基づき、当該社員の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
②産業医の就業判定
ほとんどの方は、異常値がある場合でも必要な治療を開始・継続することにより就業は可能であると思われますが、健診結果や精密検査・再検査の結果によっては、時間外労働の禁止や出張の制限、就業場所の変更などの措置が必要であると思われる場合もあります。すぐに入院が必要、あるいは自宅療養が必要な場合には「要休業」という場合もあります。
就業判定は下記のとおりです。
【通常勤務】
通常通りの就業が可能です。
【就業制限】
勤務する上で制限を加える必要があるものです。業務の負荷軽減を目的とし、下記のような制限を施します。
※ 労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業回数の減少、深夜業勤務の軽減
【要休業】
欠勤による休業補償が発生する可能性があります。労働安全衛生法第68条、労働安全衛生規則第61条による「病者の就業禁止」は、慎重に行う必要があります。就業禁止とする場合は、労働安全衛生規則第61条第2項によりあらかじめ産業医などの意見を聴く必要があります。
就業上の措置の内容は、社員に理解を得て実施しなくてはいけません。個別に説明を行なう面談の機会を設けましょう。必要時、治療を開始する医療機関を紹介します。
また、事業主に対しては社員の就業制限が必要である旨を記載した「健康管理措置票」を発行しましょう。職場の管理職(上司)の理解を得ることも必要となります。社員が問題なく治療に専念できるよう、職場のサポート体制が必要です。健康経営度調査には「上司による治療継続の確認」という項目も挙げられています。
健康経営度調査には下記の設問が掲げられています。
設問:健康診断の結果をもとに、産業医が就業区分(通常勤務、就業制限、要休業等)の判定を 行っていますか。
回答:行っている ・ 行っていない
設問:高血圧および糖尿病を含め、就業制限を検討するレベルにある 管理不良者に対して、事後措置面談および就業制限以外にどのような取り組みを行っていますか。
回答:産業医等の専門職による個別指導 ・ 医療機関の紹介 ・ 上司による治療継続の確認
4. 受診勧奨の徹底
受診勧奨として、健康診断結果票へ医療機関受診勧奨レターを封入することが有効です。プライバシーに配慮し、受診勧奨を徹底します。レターには、健康診断の有所見内容、必要な検査項目を記載し、社員より受診結果の報告を1か月以内に受け取りましょう。必要時、産業医・産業保健スタッフより受診結果内容に基づいた面談を実施します。
健康診断の受診勧奨100%を目指すためには、会社全体の理解が必要です。
日頃から下記のような取組を行ないましょう。
- 衛生委員会への報告(医療機関受診の重要性・有所見率・有所見者の医療機関受診率)
- 職場管理職に対する安全配慮義務の説明(医療機関受診における離席配慮について等)
- 産業保健スタッフにおける有所見者フォロー(定期的な受診状況・治療状況の確認)
健康経営度調査には下記の設問が掲げられています。
設問:.定期健康診断や任意健診・検診の結果により、医療機関への受診が必要と判定された者に対して、医療機関への通院・治療を促すためにどのような取り組みを行っていますか
回答:
1 全社員に対して、健診等の結果を踏まえた医療機関受診の重要性を広く周知している
2 産業医・保健師等専門職から個別に受診を勧奨している
3 専門職でない健康経営担当者から個別に受診を勧奨している
4 医療機関への通院・治療に対する就業時間認定や有給の特別休暇付与を行っている
5 本人同意のもと、上長に通院・治療に必要な時間の確保等の業務上の配慮をさせている
6 受診状況の確認を行っている
健康診断と同日での初回面談の実施や勤務シフトの調整等、 対象者が特定保健指導を利用しやすい環境を作っている
5. 産業保健スタッフによる保健指導
健康診断における受診勧奨のみではなく、メタボリックシンドローム該当者・予備軍に対する保健指導を実施し健康診断結果を有効に活用することがポイントです。個別に保健指導を行なう機会を設け、継続的に支援していきましょう。40歳以上のみではなく、30代の若年層に対しても早期に介入し、はやめに正しい健康意識を持ってもらうことで健康経営にもつながります。保健指導に関しても、職場の離席配慮の理解を得られるよう、衛生委員会で重要性を説明することが必要です。
健康経営度調査には下記の設問が掲げられています。
設問:特定保健指導実施率向上のために、事業主側としてどのような取り組みを行っていますか。
回答:健康診断と同日での初回面談の実施や勤務シフトの調整等、対象者が特定保健指導を利用しやすい環境を作っている
設問:健康診断の結果を踏まえ一定の基準を満たした社員に対する 医師または保健師による保健指導(特定保健指導を除く)を行っていますか。
回答:行っている・行っていない
おわりに
いかがでしたでしょうか。健康診断を受診することは勿論ですが、いかに健康診断結果を有効的に活用できるかが健康経営のポイントとなります。社員と企業の健康を守るために、健康診断事後措置の流れを理解し取組んでいきましょう。
参照リンク
厚生労働省:労働安全衛生法の定める健康診断事後措置のあらまし
<8C928D4E906692668E968CE3915B9275939982CC82A082E782DC82B5342E6169> (mhlw.go.jp)

